ホテルには、見事に和服に身を包んだ美佳さんの姿があった。台湾人の女性の着付け師がいて、笑顔のなか、手際良く仕上げが進められている。
家族で記念撮影などあり、とても幸せそうな美佳さんと家族の姿があった。家族の幸せは、周りの人々にも幸せを共鳴させる力がある。ふと、今の自分が、家族を幸せにするために何ができるのかを顧みた時だった。僕は知らず知らずのうちに部屋を出て、玄関先に立ち、バラア一行を待った。
やがて、遠くから爆竹の音と行列のラッパの音、そして台北慶和館の獅子舞太鼓の音が近づいて来た。雨の中、慶和館のアーフォエ、シャオテン、アリンの次男センユー、アツォンの次女ベイビーが果敢に獅子舞を舞いながら一行を先導している。その太鼓を休みなく打ち鳴らし続けているのは、アリンの長男センクワン、アツォンの長男センヤン、アツォンの長女ツーツェン。皆、雨に濡れながらも晴れやかな気概を失わずに演じ続けている。ここにももう一つの家族の姿があり、雨降りという悪条件の中、慶和館としての役目を力を合わせて、メンバーバラアのために精一杯打ち出してる姿に、僕は胸をつかれた。
一行の中ほどに馬に乗ったバラアの姿がある。元々イケ面な彼だが、この日は引き締まった面持ちがなお一層高貴な雰囲気を醸し出していた。一行がホテルの玄関先に着くと、バラアは馬からおり、玄関先で待ち受けていた美佳さんの弟、康秀君の差し出すお盆の上にあるりんごを取る。そして美佳さんの部屋べと向かう。
僕と七瀬は、外でご両人を待つことにした。
村中の若者が集まって、力を貸しているように見える。15分程して二人が姿を現した。雨は再び勢いを増してくる。御輿に美佳さんが乗り込む。僕と七瀬は、雨の中に立ち、御輿を先導すべく構えた。